20240330

2024年3月30日 14:16~14:49

 奉還町商店街の出口付近、横に2つ並んだオレンジ色のベンチに腰掛けて書いている。周りの建物の背が低いため太陽の暖かさを感じられる場所だ。曇り空であることを忘れるような明るさがベンチを色づけたようにも思う。

 目の前を人が、ひっきりなしとは言えずとも次々に通っていく。足音が遠くへ消えれば、また別の足音が聞こえてくる。たたんたんと靴音が連れてくる会話は、一部始終が分かるわけではないが、よく弾んでいる。人の音がなくなれば、残されたのは紙の上を滑るペンともっと上から鳥の鳴き声。濁点混じりのそれは一回きりだったようで、目の前の印象的な建物―涼やかな黄色の1階と生まれたばかりような白色の2階、そんな2層の建物と商店街のアーケードの間に広がる空を探してももういない。アーケードを支える柱はところどころが錆びついて、というよりはところどころが錆びついていないとした方が適切だ。2つの赤提灯が柱の中腹とそれよりも少し上に直列にぶら下がって風に揺れている。下の一つは完全な球体で形を保っているが、上の一つは中の白い電球が露わになっており、電球が赤い傘を差しているようにも見える。

 雲行きを確かめるように目線を上げる。アーケードのトタン屋根は黄色く茶色く黒く暗く、透けた空は雨模様ですらない。スピーカーらしきものとランプらしきものが役割を失って、直角下向きにうなだれていた。『お買い物の散歩道』と書かれた桃太郎の看板も吊るされている。彼も御供も書かれた当時から年を取らず、赤いチークが彩度を落とし続けているばかりだ。背景の描かれた半円の虹も色あせていて淡い。そんな看板の近く、トタン屋根の一部が周りものと比べて少しだけ透明になっている。全体的に黄色くなり波打つ形が認識できる程度には凹みの部分が黒くなっているが、取り付けられた年代がずれていることは間違いない。以前雨漏りでもあったのだろうか。まるで空に浮かんだ地層。2つの異なる時代とその下で起こった出来事について考えてしまう。

 このトタン屋根は「要は」とてもレトロとややレトロという言葉で簡単に表現されてしまうのだが、奉還町商店街はレトロとモダンという「キャッチコピー」があるらしい。確かに、岡山駅に近く、交通量の多い方の入口側のアーケードはまっさらな白色である。駅から遠ざかるように西側へ歩けばある地点で突然変色する。けれども、軒を連ねる店は屋根の具合など関係ないようで、お好み焼きパンラーメンカフェ眼鏡パン焼肉。変色した地点では、3人の若い女の子がにぎやかに出店の番をしている。買いたかったのだが、私の左手はホットコーヒーがあり、胃袋はつい先ほど買ったデカクロワッサンでいっぱいになる予定。

 と、買っていたことをようやく思い出したコーヒーとパンに手を付ける。売主は赤い頭巾に赤いエプロンの仕事服を着た女性、いらっしゃいませという元気のいい挨拶の持ち主で、私としては喜んで買った。ホットコーヒーは冷めてしまっているがデカクロワッサンは少ししょっぱい味付けでこれは美味しい。